急増する「梅毒」は最悪、死に至ることも…。痛くないしこりや腫れは発症のサイン?
- 作成:2022/01/03
「もしかして、あの時……?」。自分の性器に痛みや痒みなどの異変があると、性感染症が不安になる方は多いかもしれません。AskDoctorsでは、産婦人科医の宋美玄先生に「性感染症の基本」を教えてもらうシリーズを連載しています。今回のテーマは「梅毒」。近年、患者数が増加しており、悪化すると命にかかわることのある病気です。
この記事の目安時間は3分です
梅毒は「過去の性病」でも「他人事」でもなくなった
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
梅毒が性感染症であることはよく知られていますが、「過去の病気」だと思っている人が多いのではないでしょうか? 確かに、日本では江戸時代から戦前にかけて梅毒が猛威を振るっていたものの、戦後に特効薬のペニシリンが普及したことで患者数が激減。1990年代から2010年代初頭までは年間発症者数が1000人以下に抑え込まれ、過去の病気になったはず……でした。
ところが、2013年以降は急増を続け、2018年には7000人を突破。決して他人事ではない病気になりました。
梅毒の原因は「梅毒トレポネーマ」という細菌です。性行為の際、粘膜や皮膚の小さな傷からこの細菌が感染することで発症します。感染力が強く、感染者とコンドームなしでセックスをするとおよそ3割が感染するとされ、キスでも感染する可能性があります。
自然に症状は消えるが、静かに進行していく…
では、梅毒にはどんな症状があるのでしょうか?順を追って説明します。
【第Ⅰ期】
感染から3~4週間後に性器周辺や口、肛門などの感染部位にしこりができ、やがて崩れた状態(潰瘍)になります。この時、痛みはありません。同時に脚の付け根のリンパ節が腫れることもありますが、やはり痛みを伴わないことがほとんどです。
これらの症状は治療をしなくても自然に消えますが、体内から病原体がいなくなったわけではありません。この期間に性行為をすれば感染を広げてしまうことになるので、要注意!
【第Ⅱ期】
感染から3ヶ月くらい経つと、「発疹(ブツブツ)」が現れます。発疹の色や形、現れる場所はさまざまです。小豆粒くらいの盛り上がり(丘疹性梅毒疹)や、ピンク色の丸いあざ(バラ疹)が全身に出たり、手のひらや足の裏にフケのようなカサカサがついた赤茶色の発疹(梅毒性乾癬)が見られることもあります。いずれの発疹も、かゆみや痛みはありません。
この症状も数か月から1年ほどで自然に消え、その後しばらく無症状の期間が続きます。
【第Ⅲ期~】
感染から数年が経過すると「第Ⅲ期」に進行し、皮下組織に弾力のあるしこり(ゴム腫)が発生し、さらに進行すると脳や血管、心臓、目などに障害が生じ、最悪の場合は死に至ります。
昨今、第Ⅲ期まで進行した状態で受診するケースはほとんどなくなりましたが、より早く治療を始めることが大切です。
感染の有無は血液検査でわかる。治療は内服薬が基本
梅毒に感染したかどうかは、医療機関で血液検査(抗体検査)をすればわかります。ただし、初期は陽性反応が出ないことがあるため、性行為など感染の機会から約3週間以上おいて検査をする必要があります。パートナーも検査や治療を受けるようにしてください。
治療は、抗生物質(抗菌剤)を服用します。服用期間は、第Ⅰ期であれば2~4週間ですが、第Ⅱ期なら4~8週間、第Ⅲ期では8~12週間が目安。一般に、病状が進行するほど長期間の服用が必要です。
梅毒は無症状になる時期を挟みながら進行するため、自分で「治った」と判断して途中で治療をやめないようにすることが大事。血液検査で陰性が確認され、医師から「もう大丈夫」とお墨付きをもらうまで、しっかり治療を続けてください。
治療期間中の性行為は控えたほうがいいでしょう。
胎児に2次感染するリスクは60~80%と高確率
梅毒の感染は、妊娠や出産にも影響を与えます。妊婦が梅毒に感染した場合、胎盤を通して胎児に2次感染するリスクは60~80%と極めて高確率です。無治療のままだと、約40%は流産あるいは死産という結果に……。生まれた場合も「先天梅毒」といって、肝臓や目、耳などに障害を引き起こす可能性もあるのです。
梅毒の年代別感染者数のピークは、男性は20代から50代の幅広い世代にわたっていますが、女性は妊娠・出産年齢と重なる20代前半が突出しています。妊娠・出産の予定のある人は、より感染に注意をすることが大事です。
梅毒の血液検査は、産婦人科で受けることが可能です。地域によっては、保健所などで費用を負担することなく匿名で検査を受けることもでき、相談にも乗ってもらえます。少しでも感染の心配があれば、早めに検査を受けることを勧めします。
宋美玄 (そん・みひょん)
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
取材・構成/熊谷わこ
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