へそや肺に子宮内膜ができることも…「子宮内膜症」の不思議と、放っておけない不妊リスク
- 作成:2022/02/14
年々、生理痛がひどくなっている、生理中はお腹だけでなく腰も痛い……。そうした症状があるなら、もしかしたら「子宮内膜症」かもしれません。子宮内膜症は、進行すると不妊症の原因となり、手術が必要になる場合もあります。でも、病名だけは知っていても、どんな病気なのか、どんな治療法があるのかまで知っている方は少ないのではないでしょうか。今回は子宮内膜症について婦人科医が解説していきます。
この記事の目安時間は3分です
ほとんどの女性は、月経血がわずかに逆流している
現時点で、子宮内膜症の原因は完全には解明されていませんが、有力な説として「子宮内膜移植説」があります。生理の際には、子宮の内側にある子宮内膜が剥がれて血液と一緒に体外へ排出されますが、ほとんどの女性は生理の血液(月経血)が卵管を通ってお腹の中に少し逆流しています。しばらくすると、この血液はお腹の中で吸収されてしまうのですが、血液の中にあった子宮内膜の細胞がお腹の壁や卵巣の表面にとどまり生き残ることがあります。
このように、本来あるべき子宮の内側以外の場所に子宮内膜が生き残り、発育することを子宮内膜症と呼びます。子宮内膜症は生理のある女性の約10%に認められるといわれています。子宮内膜の細胞がお腹の中で生き残るかどうかは、その人の免疫によって左右されるとも言われていますが、このあたりもまだ完全には解明されていません。
また、月経血が逆流しないおへその表面や肺に子宮内膜症ができることもあるため、子宮内膜症のすべてが子宮内膜移植説で説明できるわけではなく、他にも原因があると考えられています。
排便時の痛みや、性交時の痛みが生じることも…
子宮内膜症で最も多い症状は生理痛です。子宮内膜症があると、その部分でも小さな生理が起こります。生理といってもお腹のなかに出血するほどではありませんが、ごく微量の出血が子宮内膜症の中で起こります。その際に炎症を起こす物質が産生され、生理痛を強くするのです。
子宮の表面に子宮内膜症があればお腹の痛みが強くなりますし、腰の骨に近いところに子宮内膜症ができれば腰も痛くなることもあります。卵巣の周りに子宮内膜症がある場合は、生理の時に決まって右や左の下腹部が痛くなることがあります。
子宮内膜症がある部分は、生理のたびに炎症が起こり硬くなってしまいます。性行為の時にその部分に痛みがでる場合もあります(性交痛)。また、腸の近くに子宮内膜症があると排便時に腸が動き、硬い部分が引っぱられてお尻の奥の方に痛みが出ることがあります(排便痛)。
卵巣に子宮内膜症ができた場合は、生理の時に子宮内膜症から出た血液が少しずつ卵巣の中に貯まっていきます。その血液は吸収されにくいので徐々に大きくなって卵巣に腫瘍ができます。古くなった血液は赤色からチョコレート色へと変わるため、子宮内膜症によってできた卵巣腫瘍をチョコレート嚢腫と呼びます。チョコレート嚢腫が大きくなると卵巣癌ができるリスクが高くなるため注意が必要です。
子宮内膜症の生理痛以外の症状には、不妊症があります。生理の度に子宮内膜症の周りには炎症が起こります。炎症が起こると周りの臓器や組織がのり付けされたように張り付いてしまいます。これを癒着といいます。
卵巣から排卵された卵子は、卵管という細い管を通って子宮まで移動しますが、卵管の先に癒着が起こると卵子が通れなくなります。卵子が子宮へとたどり着かなければ妊娠は成立しないため、不妊症となるのです。
治療法は薬の内服、または手術
治療法は大きく分けて薬による治療と、手術による治療がありますが、現在のところ子宮内膜症を完全に治す治療法は残念ながらありません。そのため一度子宮内膜症ができてしまうと、生理がある間はずっと付き合っていかなければなりません。
痛みに対しては、まず鎮痛剤を使います。ただし、鎮痛剤は痛みを抑えるだけなので、子宮内膜症の進行を抑えることはできません。鎮痛剤で痛みが抑えられない場合は、ピル(低用量ピル、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)や黄体ホルモン剤を使用します。ピルや黄体ホルモン剤は、卵巣からの女性ホルモン分泌を抑えることができ、さらに子宮内膜症に直接作用して子宮内膜症の症状や進行を抑えることもできます。ただし、これらの薬を使っても子宮内膜症が完全に消えることはありません。
薬でも痛みが改善しない場合や、チョコレート嚢腫がある場合は手術を行うこともあります。今後の妊娠を希望する場合は、子宮内膜症の病変のみを切除して子宮や正常の卵巣は温存します。今後の妊娠を希望しない場合は、子宮や卵巣、卵管を切除することもあります。今後の妊娠の希望の有無、子宮内膜症の重症度、年齢などを考慮して手術の方法が決まります。
手術をしても子宮内膜症の病変を全て取り去ることは難しく、目に見えないようなわずかな病変が再度進行する可能性もあります。生理があればまた新たに子宮内膜症ができることもあります。そのため、手術をしても卵巣が温存され今後も女性ホルモンが分泌されるのであれば再発予防のため薬を内服する必要があります。
早めに治療を開始すれば、進行を抑えることができる
今後の妊娠を希望する場合は、卵巣を温存しチョコレート嚢腫を切除しますが、その際に正常の卵巣も少し削りながら切除することになります。この時のダメージが大きいと、術後の妊娠に影響がでることがあります。また左右の卵巣とも手術した場合、ダメージが大きければ術後に女性ホルモンの分泌ができなくなり閉経してしまうこともあります。妊娠を希望される方は、なるべく手術を受ける回数を減らす必要があり、まずは薬による治療をお勧めすることが多いです。
子宮内膜症は進行すると薬でコントロールが難しくなり、手術が必要となり不妊症になるリスクもあります。完全に治す方法はまだありませんが、早めに治療を開始すれば進行を抑えることができます。生理痛が徐々にひどくなってきた、痛み止めが効かなくなった、性交痛や排便痛がある、これらの症状がある場合は早めに婦人科を受診し、子宮内膜症がないか診察を受けてください。
婦人科医・医学博士
滋賀医科大学医学部医学科卒業。滋賀医科大学附属病院にて初期臨床研修を修了後、滋賀医科大学産科学婦人科学講座に入局。関連病院で研鑽を積みつつ、大学院にて子宮内膜症・子宮腺筋症の研究を行い医学博士号取得。現在は大阪駅に程近い茶屋町レディースクリニックにて生理痛や生理に伴う症状で困っている多くの患者の診療にあたっている。
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