うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟―法改正でどう変わる?「前例がないからできません」の壁

  • 作成:2023/11/20

こんにちは。外科医ちっちです。うちの3人の子どもは、全員が自閉スペクトラム症の診断を受けており、いくつかの困りごとを抱えています。一緒に生活するうえで、「こんな発想でこんなことをしてしまうのか」と驚かされることもあれば、「こうとしか考えられないのか」と辛い思いをすることもあります。この連載では、軽度の発達障害のわが子の日常や、子育ての様子を徒然なるままに綴ります。世の中にはこんな「変わっている子」「変わっている人」もいることを、いろいろな方に広く知ってもらい、こういう人もいるよねと違いを受け入れる社会になってほしいと願っています。今回は、皆さんに「知ってほしい法律」を紹介します。

外科医ちっち 監修
 
外科医ちっち 先生

この記事の目安時間は3分です

「障害者差別解消法」って知っていますか?

実は知名度は低いのですが、障害者差別の禁止は法律で規定されています(障害者基本法)。これを軸にいくつか他にも法律が存在し、今回紹介したい不当な取り扱いの禁止などに関して取り決めた「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」は2013年6月に成立し、2016年4月1日に施行されました。

そもそもこの法律の大きな柱は2つでした。

① 不当な差別的取り扱いは禁止

② 合理的配慮の提供は国・地方自治体は義務、民間事業者は努力義務

2021年の改正を経て、民間は努力義務→義務になり2024年4月1日から施行されます。

まだ、そこまでその情報が浸透していないですし、さらに『義務』という語句でビックリしてしまう人も存在するので、今回は理念の紹介をさせて下さい。

民間にも法的な義務が課されるという言葉で不安に感じる人がいますが、要するに今までの行政と同じレベルになります。現在の行政で障害者が最優先で何もかも叶う訳ではないのと同様で、今後民間でも「障害者支援を無理でも行え」となる訳ではないです。
義務という表現だと誤解されがちですが、対応の強制ではありません。簡単に言えば今回決まったのは、

『「やったことがないから対応しません」の禁止』

です。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟―法改正でどう変わる?「前例がないからできません」の壁

障害のある方から、何かを求められた時に、それが結果的には対応できなくてもいいから、「何がどこまで対応可能で、対応できないのは何が理由なのかを皆に説明できるくらい検討すること」の義務化です。

マイノリティ(少数派)に属する生活を送ってみると分かりますが、現在でもびっくりするほど、「〇〇したい」という意見に、検討なしの「やったことないから無理です」が返ってきます。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟―法改正でどう変わる?「前例がないからできません」の壁

法的に義務化されたのは、そんな『検討なしに断る』ような状況の禁止であり、全ての要求を通すなどではありません。なので施行後も、対応できない、コストがかかりすぎて無理なことをさせられることにはなりません。

その代わり、障害者側、サービスや商品を提供する事業主側それぞれに何ができて何ができないかを都度考えましょうという法律です。

「当たり前のこと」を法律で決める理由

内閣府のホームページに「合理的配慮」の実例集のデータベースがあります。実際には、こういった例を参考に運用されますし、下のページにも書かれているように人員や金銭的な余裕が事業者によって違いますから、例のように対応できなくても、直ちに「合理的配慮ができていない」と判断される訳でもありません。

【内閣府 合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ】
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/

実際の施行が近くなれば、マスコミでの報道も増えていくとは思いますが、この法律は理念が主体で、現実的に罰則などがあるではありません。その理念も、上で述べたように、ある意味で当たり前(ちょっと変わった人が来た時に、「断る一択」の対応ではなく、まずはお互いに何ができるのか一緒に考える・話し合う)のものです。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟―法改正でどう変わる?「前例がないからできません」の壁

義務という言葉への抵抗ではなく、その理念と内容を多くの人に知ってほしいです。

多分、法改正の内容を聞いて「ん? 当たり前のことじゃないの? 何を決めているの?」と思う方も多いと思います。実際には、この法律なしでも色々と対応してくれる・相談にのってくれる方も、世の中には大勢います。一方で、行政組織を含めて、それができない方も確かにいて、そうなると一気に障害のある方の生活は難しくなることがあります。なので、それを法律として規定しましょうというのが障害者差別解消法です。

だからこそ、この法律が1番輝くのは、障害への対応をコスト増とみなして行わない管理者・経営者側からの意見に対し、実務に関わる人が「いや~、それだとこれからの時代は法律違反なんで。〇〇を工夫したら、△△はできるから、それだと負担増加もほぼないし、いいですよね? 他には、□□の準備をしておけば、多くのお客さんも便利になった上で、◇◇の人にも対応しやすくなるし、今から検討しません?」と交渉する時かなと考えています。

外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti

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