薬の始め方そして終わり方は専門家と相談を – 不眠症治療の進め方-
- 作成:2025/03/31
不眠症の治療では、原因を治す、薬のやめ方を計算に入れるなど、「出口を見すえる」ことが大切になります。本記事では、精神科医・医学博士の堤多可弘先生に、不眠症治療の進め方や、各不眠症治療薬の特徴、不眠症治療の終わり方についてご解説いただきます。
この記事の目安時間は6分です

不眠症の治療法
不眠症の治療は、まず丁寧な問診や検査によって原因を特定することからスタートします。そしてその原因を除去することが根本的な治療です。その原因が見つからない場合(原発性)や、すぐには解決が不可能な場合などは、不眠そのものに対して治療を行っていきます。
例えば不眠症の原因がアトピー性皮膚炎によるかゆみだった場合は、まずアトピー性皮膚炎の治療を行いますし、うつ病によって不眠症を呈している場合は、うつ病の治療を行います。一方、アトピー性皮膚炎やうつ病はすぐに治るものでもありません。その間、不眠を放置してしまうと、辛いばかりか原因となる病気の回復の妨げにもなります。そんなときは対症療法としての薬物療法などが有効になります。
不眠症の治療は元の病気の解決にもつながる対症療法だと思ってください。
元の病気以外の治療アプローチについては、薬物療法のほかに、睡眠衛生指導という生活習慣や睡眠習慣の工夫を指導するアプローチもあります。また、睡眠に特化したカウンセリングiCBTなどと呼ばれるものもあります。
睡眠衛生指導の内容はこちらの資料(さいたま市 健康なび『健康づくりのための睡眠指針~睡眠12箇条~』)が非常に分かりやすいので参考にしてください。
睡眠薬を使う場合、基本としてはできるだけ作用時間が短く、安全で、副作用が少なく、相性のよさそうなものを探していきます。
不眠症の治療で重要なのは、睡眠や精神疾患に詳しい医師の診療を受けることです。
最近ではオンライン診療も普及してきていますが、中には専門性が高くない医師が診療していたり、ほぼ診察なしで睡眠薬を処方したりするようなオンラインクリニックもあるので、注意が必要です。不十分な診療で不眠症の原因を特定しないまま睡眠薬を服用しても、副作用ばかり出て、不眠症が改善しない、といったことも起こりえます。
例えば、むずむず脚症候群(レストレスレッグス)と呼ばれる病気があります。寝ようとすると足がむずむずして、いてもたってもいられず不眠になる、非常につらい病気です。鉄分不足や貧血が理由でも起きることが知られており、問診に加え血液検査などをしないと診断ができず、治療に貧血の改善により行います。不眠の原因がこのような病気である場合、きちんと原因を確かめず、貧血を放置して睡眠薬で不眠を改善しようとしても、不眠は改善されず、副作用が出るのみになってしまいます。
不眠症治療薬の特徴
不眠症の治療薬は、睡眠改善薬、睡眠剤、睡眠導入剤など様々な呼ばれ方をしますが、基本的には同じものと考えて大丈夫です。いずれも眠気を誘うこと(催眠作用)が基本であり、違いは作用時間や他の作用(抗不安作用など)があるかどうかです。
ここからは各薬剤について説明していきます。
・市販薬(抗ヒスタミン薬)
市販の睡眠改善薬の主な有効成分は抗ヒスタミン成分というものです。これはアレルギー薬などに含まれる成分で、眠気などをもよおす作用があります。比較的副作用が少なく、安全性が高いのですが、耐性、いわゆる慣れを生じやすいため長期の利用には向きません。また、効果が比較的マイルドなのが特徴です。
・ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系)
最も種類が多く、長年にわたって利用されている睡眠薬がこのカテゴリーの薬で、今でも現役です。この薬が登場する以前はバルビツール酸系と呼ばれるカテゴリーの薬が主流だったのですが、バルビツール酸系は効果が強い一方、依存性や安全性に課題がありました。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、バルビツール酸系と比べて依存性や安全性が大幅に改善されいます。様々な種類の薬がありますが、ベンゾジアゼピン受容体というところに作用して催眠作用を発揮するメカニズムは同じです。薬ごとで違うのは、作用時間や、催眠作用以外の作用の強弱です。ベンゾジアゼピン系受容体には催眠作用以外にも筋弛緩作用や抗不安作用などがあり、何に強く効くかが薬によって異なります。
・非ベンゾジアゼピン受容体作動薬
ベンゾジアゼピン受容体作動薬と化学構造が違うためにこういった呼ばれ方をしていますが、効き方のメカニズムはベンゾジアゼピン受容体作動薬と同じです。
比較的催眠作用に特化し他の作用が弱いという点はありますが、基本はベンゾジアゼピン受容体作動薬と同じものと考えていいレベルです。
・オレキシン受容体拮抗薬
ベンゾジアゼピン受容体型(非ベンゾジアゼピン受容体作動薬もふくむ)より新しく開発された薬たちです。オレキシン受容体という、目を覚ます作用のある受容体(鍵穴みたいなもの)をブロックすることで作用します。
ベンゾジアゼピン系の薬は、バルビツール酸系と比べて安全性や依存性が改善されていますが、副作用としてふらつき・転倒や、長期大量に使うことによる耐性と依存、さらにはひどい寝ぼけのような症状などの問題はありました。それらが改善された薬になります。
一方で、頭痛や悪夢といった副作用があったり、抗不安作用がなくなったことにより「不安で眠れない」といった症状には相性が悪かったりします。
・メラトニン受容体作動薬
これまであげてきた薬は基本的に眠気を誘う催眠作用に強みがあったのですが、メラトニン受容体作動薬はその効き方が少し特殊です。もちろん眠気を誘う作用は多少なりともあるのですが、それ以上に特徴的なのは睡眠のリズムを整える作用です。
メラトニンという睡眠に関わるホルモンの代わりにメラトニン受容体に作用して睡眠のリズムを整えることで不眠症を改善します。
以上色々な種類の薬がありますが、どれが優れている、というよりも特徴や相性によって使い分けていくものになります。
薬物療法の終わり方
不眠症には、元の病気を治す、やめ方を計算に入れるといった「出口を見すえた」治療が欠かせません。
薬による治療の終わり方としては、睡眠が一定期間安定したタイミングで、少しずつ減らしていく、あるいは中断する、などの選択肢があります。
特にベンゾジアゼピン系(非ベンゾジアゼピン系も含む)の薬では、反跳性不眠といって、薬をいきなりぷつっと切ってしまうとリバウンドのように眠れなくなる現象があります。これを防ぐために、半分ずつあるいは1/4ずつなど、ゆっくりゆっくり薬を減らしていくことがあります。目安としては、だいたい1ヵ月程度睡眠が安定したら減らすようにするとうまくいくことが多いと感じています。あまり推奨するやり方ではないですが、「飲み忘れても全然眠れる」ということが続けば、それもやめるタイミングだったりします。一方で、やめどきの見極めは難しく、離脱症状のようにかなり辛い症状が出ることもあります。こういった事態を避けるためにも、薬の始め方そして終わり方は専門医とよく相談した方がよいでしょう。
自己判断で薬を飲んだり飲まなかったりすることを繰り返すと、治療がうまくいきません。頓服といって、眠れないときだけ薬を飲むやり方もあるのですが、飲むかどうか迷うことが多かったり、週のうち3日以上飲んだりする場合は、毎日定期的に飲んでしっかり睡眠を整え、徐々に量を減らすやり方をおすすめしています。また、専門医以外が出口を見据えず、安易に作用が強力な薬を乱用するケースや、個人輸入などで自己判断だけで睡眠薬を購入しているケースもみられますが、こういった場合はやめることが困難になるので、入り口時点から専門医に相談することをおすすめします。
精神科医・医学博士
株式会社ウェルプラ メディカルディレクター
東京女子医科大学病院精神科で助教・非常勤講師、メンタルクリニックの副院長を歴任したのち、現在は約20か所の企業・行政機関の産業医を務めている。また、ヘルスケア企業やHR領域の事業のメディカルディレクターを務めている。「健康問題を経営問題にしない」をミッションとし企業・ビジネスパーソン双方のサポートを専門としている。
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