「寝つきが悪いだけ」は大丈夫? それは不眠症かもしれません

  • 作成:2025/03/31

睡眠問題に問題が生じ、日中にさまざまな不調が現れる不眠症。これらの不調は、痛みをともなうようなはっきりとしたものではないため、「よく眠れずに困っているけど、放置している」「あまり眠れていないけれど特に困っていない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、睡眠不足は体や脳、精神状態などにさまざまな悪影響を与えます。また、慢性的な睡眠不足になると、眠気を強く自覚しなくなり、悪影響にきづけない、という状態にもなります。本記事では、精神科医・医学博士の堤多可弘先生に、どのような状態を不眠症というかや、その原因、不眠症によって引き起こされるデメリットを解説いただきます。

堤 多可弘 監修
堤産業医オフィス 代表産業医
堤 多可弘 先生

この記事の目安時間は6分です

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寝つきが悪い」「途中で何度も目が覚める」「早朝に目覚めてしまい二度寝ができない」「寝ても寝た気がしない」などのいわゆる不眠症に関する悩みは、日本人の2割から4割ぐらいの方が抱えているといわれています。中には不眠症が慢性化してしまい、「寝つきが悪いのはもうずっとだから」とあきらめてしまっている方もいらっしゃいます。しかし不眠症は適切に対処することで治る可能性も大いにありますし、何より放置することでさまざまなデメリットがあります。本記事ではそんな不眠症について解説します。

不眠症の種類と原因

平たくいうと、寝たくても寝られないで、苦痛や困りごとが生じる状態が続くのが不眠症です。なんらかの理由で寝られないことは誰にでもありますが、私は週に2日以上こういった状態になり、1か月くらい持続していたら受診をするようにお伝えしています。
不眠症の原因としては、ストレス、生活習慣、体質、持病、薬剤やカフェインなどの物質の影響などがあります。また、メンタル疾患の一症状として不眠が現れることも多くあります。他の病気の痛みやかゆみによって不眠になっていることも少なくなく、複合的にいろいろな要因が重なっていることも多くあります。

不眠症を原因別にざっくりと分類すると、以下のようになります。

  • ストレスなどによる不眠
  • メンタル疾患の症状としての不眠
  • 身体の疾患などの影響による不眠
  • 薬剤などの影響による不眠
  • 生活習慣や生活リズムの乱れによる不眠
  • 原因がはっきりしない場合(原発性)や体質(概日リズム睡眠障害)による不眠

不眠症の専門医は、丁寧な問診や検査によって上記のような原因を突き止め、適切な治療を行います。不眠症の原因を専門医以外が見極めるのは困難であり、寝られないからといって安易に睡眠薬だけに頼るのは危険です。例えば体に原因があるのに睡眠薬を飲み続けていては根本解決ができず、体も悪くなるし不眠も改善しないという最悪の結末になってしまいます。

不眠症を放置するデメリット - 不眠は肥満のもと? -

長期間不眠症を抱えている方の中には、「寝つきが悪いのはもうずっとだから」などとあきらめ、放置している方もいらっしゃるかもしれません。では、不眠症を放置するとどうなるのでしょうか?

睡眠は体の機能や脳の機能を保つために極めて重要な役割を持っています。
十分な睡眠時間が取れていないとホルモンバランスが崩れ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を悪化させたり、免疫機能を低下させたりすることにつながります。また、睡眠不足になると、グレリンという食欲増加ホルモンが増え、レプチンという食欲を抑制するホルモンが減ってしまう結果、過食になって太りやすくなるといわれています。

脳の機能に関しては、睡眠不足により、認知機能(記憶力、思考力、集中力、注意力など)が低下するといわれています。その一方、慢性的な睡眠不足では、眠気を強く自覚しなくなるといわれています。つまり、眠くないのに脳は寝ている状態になってしまうわけです。「寝れないのはいつものことで困っていない」という人は、実は眠気を自覚していないだけで、認知機能が著しく低下しているのかもしれません。最近では、睡眠不足により脳が縮んでしまう、という研究結果もあります。

睡眠不足の状態では、上記のような体や脳への影響に加え、不安やイライラが増強することも知られています。その結果、いわゆるメンタルが不安定な状態になり、対人関係が悪くなってしまい、仕事などに支障をきたすことも考えられます。また、不眠がいろいろなメンタル疾患の入り口であったり、メンタル疾患の症状であったりするケースも多くあります。

たかが不眠とあなどり、放置するのはやめた方がいいでしょう。

おわりに

適切な睡眠時間には個人差があるといわれていますが、成人ではおおよそ7~9時間が適切な睡眠時間とされ、睡眠時間が6時間を切ると様々な健康被害が出ることが分かっています。ちなみに、ショートスリーパーと呼ばれる睡眠時間が短くてすむ人は遺伝子レベルで決まっており、10万人に4人程度しかいないそうです。

不眠症は治療開始が早ければ早いほど治りがいい傾向があります。反対に不眠は不眠を呼ぶかのごとく、慢性化しやすいものでもあります。
病院に行くことや薬を嫌がって治療を受けない方も多いのですが。不眠は癖になりやすく、悪化もしやすいです。寝ようと思っても6時間以上の睡眠が取れない、もしくは眠れなくてつらかったり困ったりしているのであれば早めに医師に相談することをおすすめします。

精神科医・医学博士
株式会社ウェルプラ メディカルディレクター

東京女子医科大学病院精神科で助教・非常勤講師、メンタルクリニックの副院長を歴任したのち、現在は約20か所の企業・行政機関の産業医を務めている。また、ヘルスケア企業やHR領域の事業のメディカルディレクターを務めている。「健康問題を経営問題にしない」をミッションとし企業・ビジネスパーソン双方のサポートを専門としている。

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