溶連菌感染症の7つ合併症と「人食いバクテリア」の理由 皮膚にも影響?

  • 作成:2016/03/10

溶連菌感染症には、多様な合併症があり、腎炎(腎臓の炎症)や中耳炎を起こすことがあります。原因となる溶連菌(正しくは溶血性連鎖球菌)が近年、「人食いバクテリア」として有名になった理由も含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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溶連菌が「人食いバクテリア」として有名になった理由

1980年代に、欧米で軟部組織(おおまかに骨格以外の組織を指します)の壊死、ショック、腎不全、凝固異常(DIC)を示し、致死率30%から40%に達する疾患が報告されました。正確には「壊死性軟部組織感染症(えしせいなんぶそしきかんせんしょう)」や「壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)」といいます。溶連菌以外にも様々な菌が原因になる可能性がありますが、原因菌として最も数が多いのがA群β溶連菌と言われています。

1980年代には抗生剤治療が発達し、溶連菌感染症はもはや脅威ではないと考えられていたため、溶連菌感染により高い確率で死に至る病気の報告は大きな話題となりマスコミ等で「人食いバクテリア」という名前で報道され有名になりました。別名「劇症型溶連菌感染症」とも呼ばれています。

この病気は小さな傷口などから菌が体内に入り、菌の広がりとともに皮膚から皮下脂肪、筋膜などの皮下の組織が死んでしまう病気です。日本では年間100人から200人程度の発症があり、うち30%から40%が死亡しています。

治療は主に手術を行い感染し死んだ組織を取り除き、抗生剤を投与することが基本になります。特に手術が少しでも遅れると命にかかわるため、素早く診断し手術を行うことがその後の命運を分けると言われています。

合併症に大人と子供の差はある?

一般的な溶連菌感染症の旧跡の合併症は、急性期では中耳炎や肺炎、リンパ節炎など、感染後では急性糸球体腎炎やリウマチ熱などがあります。大人と子供を比べると、子供はもともと大人よりも中耳炎になりやすいため中耳炎が多く、また体力がない乳幼児では肺炎が多くなる傾向にあります。

腎炎の症状と危険性

溶連菌感染後、2週間から3週間後に血尿、蛋白尿、むくみなどが起きて「急性糸球体腎炎」と診断される場合があります。軽症の場合は安静にすることで自然に治る場合が多いのですが、症状が重い場合は入院治療が必要になるケースもありますので、注意が必要です。

溶連菌感染後に急性糸球体腎炎になる理由は、免疫(体内に入った菌と戦う機能)の関連が考えられていますが、抗生剤で治療を行っても発生する場合もあり、完全に予防することは出来ません。

そのため、早期発見が大切になります。溶連菌感染症と診断された場合は症状がなくなった後に尿検査を必ず受け、急性糸球体腎炎が起きていないかきちんと調べてもらいましょう。

リウマチ熱の症状と危険性

「リウマチ熱」とは、溶連菌感染症後に起こる関節痛、発熱、胸痛、発疹、心臓の炎症、皮下のこぶ(小結節)などの症状がみられる病気です。溶連菌そのものによる病気ではなく、溶連菌に対して、免疫が過剰に反応した結果、身体に様々な症状を起こすと考えられています。

溶連菌感染症にはいくつか種類がありますが、咽頭炎など喉の炎症の場合にリウマチ熱がみられ、皮膚の感染症や身体のその他の部位への感染症ではリウマチ熱は起こりません。

リウマチ熱の症状として最も多いのは関節痛、発熱です。足首や膝(ひざ)、肘(ぎじ)、手首などの関節が痛み、赤く熱を持ってはれることもあります。関節痛は「移動性」といって、症状を持った一つの関節の症状が治まるにつれて、他の関節が痛むようになることが特徴的で、通常2週間から4週間続きます。リウマチ熱による関節痛は通常後遺症を残さずに治ります。

心臓の炎症では、胸痛などを起こす場合もありますが、全く自覚症状がない場合もあります。後遺症を残さずに治癒する場合もありますが、まれ心臓の弁が損傷することがあり、リウマチ熱にかかってから何十年もたってから心臓の弁の異常により心不全や不整脈を起こすケースもあります。

皮膚では、縁が波打つような形の発疹(輪状紅斑<りんじょうこうはん>といいます)や皮膚の下に小さなしこりができることがありますが、どちらも痛みや痒みなどの症状はなく炎症が治まるにつれて自然と消えてゆきます。

この他、神経系に炎症が起こるとけいれんのような症状が起こる場合があります。

治療としては、全身の炎症や痛みを抑えるため抗生剤や解熱鎮痛剤、ステロイドなどを投与します。

様々な症状を起こすリウマチ熱ですが、近年の抗生剤治療の発達により発生数は激減しています。現在ではほとんどみられなくなりました。

中耳炎の症状と危険性

溶連菌感染症に合併する中耳炎は、特に子供でよくみられます。これは喉の奥の「咽頭(いんとう)」という部分と耳をつなぐ「耳管(じかん)」という管の構造によるものです。子供では大人に比べて、耳管が短く、また角度が水平に近く、真っ直ぐなため、咽頭に菌が増殖して炎症が起きると、簡単に耳に炎症が波及してしまうのです。加えて、子供の耳管は細いため、炎症が起きると閉塞しやすく(つまりやすく)、耳に膿がたまりやすいのです。

中耳炎では抗生剤や解熱鎮痛剤を内服し、それでも良くならない場合は「鼓膜切開」といって鼓膜を少し切って膿を出す処置を行います。

副鼻腔炎の症状と危険性

溶連菌感染に合併して副鼻腔炎を起こすことがあります。「副鼻腔」とは鼻の穴につながって存在する空洞で、頬(ほお)、額、両目の間のあたりにそれぞれ存在しています。溶連菌感染により、喉の奥に炎症が起こると、喉から鼻へ、鼻から副鼻腔へと炎症が及ぶことがあります。この副鼻腔に炎症が及んだ場合を「副鼻腔炎」と呼び、頭痛や目の下の頬の部分が痛くなったり、蓄膿のような症状を起こす場合があります。通常は抗生剤の内服で後遺症を残さずに治りますが、体質により繰り返し症状がでたり、慢性化して慢性副鼻腔炎となることもあります。

扁桃炎、咽頭炎の症状と危険性

扁桃炎や咽頭炎は溶連菌感染症で最も起こりやすい症状の一つです。喉が非常に強く痛み、固形物が飲み込めなくなることも珍しくはありません。咽頭炎だけではあまり高い熱は出ない事が多いのですが、扁桃炎になると39度から40度の高熱が出る場合もあります。治療は抗生剤の内服や点滴を行います。

血管性紫斑病の症状と危険性

「血管性紫斑病」とは細菌やウイルス感染に引き続いて起こる血管の炎症による病気で、(1)皮膚の出血斑(2)腹痛、嘔吐(3)関節痛(4)紫斑病性腎炎(後述)などの症状がみられます。主に15歳以下の子供に多い病気ですが、大人でも発症する場合があります。別名として「アレルギー性紫斑病」「アナフィラクトイド紫斑病」「シェーンライン・ヘノッホ紫斑病」という名前もあります。

血管性紫斑病の患者さんの半数に、発症前の細菌感染やウイルス感染が確認されており、感染症そのものではなく細菌感染やウイルス感染によって活発になった免疫が過剰に働き、体中の小血管に炎症を起こすために引き起こされる病気と考えられています。

(1)皮膚の出血班は、紫斑とも呼ばれ、ほぼ全例にみられます。紫斑という名前の通り、紫がかった赤色の皮下出血で、主に足にみられます。

(2)腹痛、嘔吐は5割から6割程度の患者さんにみられ、救急外来にかかるほどの激しい腹痛や血便を伴う場合もあります。

(3)関節痛は6割程度にみられ、通常膝や肘の関節が、両側とも痛みます。肩や股関節、指の関節などは痛みません。

(4)紫斑病性腎炎は紫斑病の発症から3カ月以内(4週間程度が多い)に発症することが多いのですが、1年後に発症したという報告もあり長期にわたって注意が必要です。蛋白尿や血尿、むくみ、尿量の減少などの症状があります。

血管性紫斑病は通常自宅での安静のみで症状がおさまる事が多く、数週間程度で治癒します。しかし腹痛が激しかったり血便が出る、腎炎の症状が重い場合にはステロイドなどの投与を行い治療します。

皮膚に起きる合併症

溶連菌の皮膚への感染症は、感染の深さによって、名前が変わります。皮膚は上から「表皮」「真皮」「皮下組織と」いう層に分かれています。表皮への感染を「伝染性膿痂疹(のうかしん、いわゆる「とびひ」)」、真皮への感染を「丹毒(たんどく)」、皮下組織への感染を「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼んでいます。

「伝染性膿痂疹(とびひ)」は表皮に細菌が感染した状態で、夏場によくみられます。皮膚に膿(うみ)やかさぶたを伴う炎症がおき、ひっかくと周囲に炎症が次々と広がることから、「とびひ(飛び火)」という名前がついています。虫刺されやあせもなどの小さな傷口から細菌が進入し感染に至ることが多いようです。

「丹毒」とは。真皮に感染が起きた状態で、急に発症する皮膚の発赤、高熱、痛みなどが主な症状です。皮膚の炎症は熱をもって赤くはれ、急速に広がります。放置すると、「壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)」などの重大な病気に発展する可能性もあり、すぐに病院を受診して抗生剤の内服や点滴で治療する必要があります。

「蜂窩織炎」は皮膚の下の皮下脂肪などの炎症で、下肢(脚の部分)に多く発症します。糖尿病や高齢者など体力の弱い方に発症しやすく、アトピー性皮膚炎や乾燥肌で踵(かかと)や脛(すね)にひび割れがある場合にも感染リスクが高くなりますが、感染経路がはっきりしない場合も多くあります。抗生剤の点滴や内服で、治療します。


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溶連菌感染症の合併症についご紹介しました。溶連菌感染症のニュースを聞いて、不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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