生活習慣病は老化で起こる? 若いうちから意識したい大切なこと
- 作成:2021/11/05
高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は突然起こるわけではなく、長い時間をかけて少しずつ進行していきます。なぜ、徐々に進行するのか、私たちはどう対処すればいいのか。今回は、生活習慣病と老化について横山啓太郎先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
体の機能が低下することで起こる生活習慣病
老化とは、徐々に体が変化して心臓や腎臓、脳の働き、そして筋力などが低下していく状態を表しています。そして老化は、誰であっても絶対に避けることはできません。
したがって、こうした体の変化に合わせて生活習慣を変えていく必要があります。徐々に機能が低下していく体への外的な負荷を少なくすることで、高血圧症や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を予防することになるわけです。
ただ、老化現象とは、どこまでが健康でありどこからが病気になる、という境界線が明確ではありません。例えば、病気を起こす微生物によって発症する感染症は、感染して発熱や下痢、呼吸困難といった症状が出ると、誰もが病気になったのではないかと自覚できます。
しかし老化と関連している生活習慣病の場合、多くの人が自分の体の機能が徐々に低下してきていると感じながらも、日常生活を送れているので特に注意を払わないものです。この状態でそれまでと同じ生活習慣を続けていけば、体が外的な負荷をますます処理できなくなり、高い確率で生活習慣病を発症することになります。
いくつかの病気は、薬や手術によって治ることが期待できますが、体自体の老化と関連する生活習慣病の場合は、薬や手術で元の健康体に戻ることはできません。つまり一生、糖尿病や脂質異常症、高血圧症と付き合っていかなければならなくなるのです。
若いうちから老化を意識し、早期に予防を始める
一般的に健康に注目するようになるのは60歳を超えてからというのが普通だと思います。ですが老化現象は、私たちが考えているよりも前、若い頃から始まります。お酒に弱くなったとか、記憶力が低下してきたとか、徹夜ができなくなってきたということは、60代よりも前に感じ始めることが多いのではないでしょうか。すなわち、50代や40代、場合によっては30代後半からすでに体の老化が徐々に表に出てきているということが言えます。
健診でのデータが正常値内でも、徐々に体重が増える、血圧、HbA1cや脂質が上昇するのであれば、それは自身の体の処理能力が落ちているのかもしません。
Wenling Zheng(サザン医科大学:中国)は、1987年に6〜15歳の子どもの4623人を研究対象として30年間腎臓の機能を評価しました。すると血圧が子どもの頃から高く成人になっても高いグループよりも、子どもの頃は正常で成人になってから高くなるグループのほうが腎臓の機能が低下していくことが明らかになったのです(J Am Soc Nephrol 29: 2835–2846, 2018)。
このような健康が徐々に失われていくことに対応する診療科は残念ながらありません。
心臓を診る循環器内科、腎臓を診る腎臓内科という具合に臓器別になっています。老化をしていくことを診てくれる診療科がないのです。
ですから、生活習慣病に対処するうえで大切なのは、自身で避けることができない「老化」を認識し、生活習慣を改善するという「予防」を早い段階で始めることです。
最後に、知り合いの野球選手から聞いた話を紹介します。
彼は「守備の上手い一流の外野手は、フライが飛んでから何歩目が、他の選手に比べ優れているでしょうか?」という質問をしてきました。「フライを取る直前ですか? それとも1歩目でしょうか?」答えは、いずれも違いました。正解は「0歩目」。球が飛んでくる以前に、打者によってどこに守るのかが一番重要だそうです。
健康に対しても同じことが言えます。皆さんが健康に対しても、老化に対してもどこの場所に立つべきかを最初に決めるのが、一番大切です。
1958年生まれ。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。2019年には寝たきりのリスクを減らす新型人間ドック「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせた。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。主な研究分野は、慢性腎臓病の進展制御と合併症研究、Ca制御機構に関する研究、血管石灰化研究、生活習慣病行動変容。2021年から東京慈恵会医科大学 大学院 健康科学教授。
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