「基準値内だから安心」とは限らない健康診断 老化や体質を確認するデータの見方と取り方
- 作成:2021/11/16
健康をマネジメントするためには、まず自分の今の体の状態を知ることが大切です。そのために活用したいのが、健康診断の結果です。健康診断結果は、究極の個人情報。とても大切で、有効利用できるものです。しかし、正しい見方をしなければ、この有意義な情報もただの数字でしかありません。今回は、健康診断の結果から何を読み取るのか、どのように活かすのかを横山啓太郎先生に解説していただきます。
この記事の目安時間は3分です
1回の検査数値より「体の機能状態」を重視する
健康診断において、生活習慣病に関係する検査は血液や血管に関するものが多いといえます。生活習慣病はそれらがすべての原因で起こるというわけではありませんが、「血液・血管」と非常に深い関連性があるからです。血液と血管を調べることで、生活習慣病を評価し、ひいては理解することもできるようになるといえるでしょう。
では、健康診断の検査数値を、みなさんはどう見ているでしょうか?
生活習慣病は老化と大きく関連しています。老化現象とは、連続して徐々に体が変化していくことです。生活習慣病への対策としては、検査数値で老化現象を把握することがポイントといえます。たとえ異常値や危険水域になっていなくても、自分の体がどれだけ老化してきているのかを、日ごろから把握することは大切です。
生活習慣病を評価する際にも、その時々の「定点」のデータを見るだけでは、体の変動を把握することはできません。つまり、定点として単なる「数字」を見るのではなく、変化し続ける「体の機能の状態」に目を向ける必要があるのです。
たとえば安静時の血圧だけに注目するのではなく、運動などをしたあとでどれくらい血圧が上がるのか、その変化率も見ることで、老化による体の変化を把握することが可能となりますし、個々人の体質もわかるようになります(安静時の血圧測定が無駄なわけではありません)。自動車と一緒で、私たちの体も、動的な環境下での機能テストや耐久テストが必要だということです。
検査数値「点」ではなく、連続した「線」として見る
毎年の健康診断で、血中コレステロール値を気にする人は多いと思います。
ただ、「基準値よりも下だな。まだ大丈夫だ」と安心してはいけません。去年の数値、さらにはここ数年の数値はどうでしょう。ちゃんと覚えていて、比較しているでしょうか。もしかすると今年はまだ安全域ですが、数年前から着実に上昇していて、去年と今年で上昇率が急激に高くなっているかもしれません。だとすれば、この状態で今までと同じ生活習慣を続けていると、来年か再来年には脂質異常症と診断される数値に突入するかもしれません。
あるいは、血圧や血糖値の1日の変動を時系列的に調べることも意義があります。
たとえば1日のうちに、人間は食事や仕事など、さまざまな生活活動を行います。その時々の血糖値の変動はどうだったか、その全体像を把握できれば、現状の体の処理能力を知ることが可能となります。
近年のIoT技術(機器同士がネットでつながって情報交換を行い相互に制御する技術)の進歩によって、こうした連続的なデータを取ることは、一般の人たちも日常的に可能になりつつあります。
たとえば、インスリン治療下の糖尿病患者を対象に開発された、日常生活下で持続血糖測定が可能なウェアラブルデバイスであるフリースタイル・リブレ。これはインターネットで入手可能で、むしろ一般人がフィットネスクラブでの食事管理やダイエットの補助として使用するIoTデバイスとして広く社会に浸透しています。センサーを腕に貼りつけると14日間の血糖データを見ることができます。
リブレデータは車のスピードメーターのようなもので、スピードの数値を見てブレーキを踏むように、食べている最中の血糖上昇が見えることで過食を制限することが出来ます。
車の運転でカーナビが浸透して、地図を見ながら運転することがなくなったように、糖尿病診療を大きく変える可能性があります。
また、この血糖変動は個別なフィードバックため被検者はその変動を見て、自己の健康リテラシに目を向けるようになるでしょう。
リブレ使用時の具体的なデータを示します。
私の1日の血糖変動です(下図)。昼食の稲荷ずしの摂取で糖尿病レベルまで血糖上昇後、一時的に血糖が低下しますが、講演中は何も摂取していないのに血糖が上昇していることが見て取れます。その後の宴席では血糖は低下しています。これを見ると私に対する指導としては、夜の宴席を避けることよりも昼の白米を控えることのほうが適切と言えるでしょう。
このように、連続的なデータを把握することで、さまざまな状況下における血圧や血糖値はどうか、自分の体質に関するデータを得ることができるようになりました。
私たちの体は一人ひとり異なっており、体質も違います。基準値と異常値について理解したうえで、自分の体の変動に注意を払う必要があるのです。
生活習慣病への対策を考える際、検査数値は「基準値を超えていないからまだ安心!」と漫然と捉えるのではなく、個々人の体質を考慮に入れたうえで、自分の体の機能変化および生活習慣病の評価のために、動的かつ連続的に見ることが大切となるのです。
1958年生まれ。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。2019年には寝たきりのリスクを減らす新型人間ドック「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせた。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。主な研究分野は、慢性腎臓病の進展制御と合併症研究、Ca制御機構に関する研究、血管石灰化研究、生活習慣病行動変容。2021年から東京慈恵会医科大学 大学院 健康科学教授。
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