子宮頸がんワクチンは大人にも効果あり!定期的な検診も忘れずに
- 作成:2022/01/22
もしかして感染した? パートナーに感染させてしまった? 多くの女性が性感染症に関する悩みを抱えています。AskDoctorsでは、産婦人科医の宋美玄先生に「性感染症の基本」について教えてもらうシリーズを連載。今回のテーマは、「子宮頸がん」です。「がんが性感染症なの?」と意外に思うかもしれませんが、実は子宮頸がんのほとんどはセックスによるウイルス感染が原因で発症しています。
この記事の目安時間は3分です
他のがんは中高年に多いのに、宮頸がんは若い人に多い
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
子宮頸がんは、子宮の入り口付近(子宮頸部)から発生するがんのこと。日本では2000年以降患者数・死亡者数ともに増加傾向が続いていて、年間約1万人が罹患し、3000人近くが死亡しています。
かつては40代~50代が発症のピークでしたが、最近は20~30歳代の若い女性が増え、30歳代後半がピークとなっています。
肺がんや胃がんなど大半のがんは中高年以降、加齢とともに罹患者が増加していく「高齢病」なのに、なぜ子宮頸がんは若い世代に多いのでしょうか? 実は、子宮頸がんのほとんどは、「HPV(ヒトパピローマウイルス)」というウイルスの感染によるもの。感染者の性器周辺の皮膚や粘膜にいるHPVが、セックスによって子宮頸部に感染します。そのため、性行動が盛んな若い世代で増えているのです。
HPVは現在わかっているだけでも約200種類の遺伝子タイプがあり、そのうちの15種類ほどががんの原因になるハイリスクタイプだと言われています。
HPVはありふれたウイルスで、セックスの経験がある女性の半数以上は、生涯一度は感染すると言われているほど。感染しても大半のウイルスは免疫の力で自然に除去されますが、ごく一部のウイルスが長期間子宮にとどまり、さらにその一部が「異形成」と呼ばれる前がん病変になり、やがてがんに成長することがあります。
初期の子宮頸がんは自覚症状なし。早期発見には検診を
異形成の約8割は異形成のまま、あるいは自然消滅します。がん化した場合、当初は「上皮内がん」といって、がんが子宮頸部の表面だけにとどまっている状態ですが、放っておくと周囲の組織に広がる「浸潤がん」へと進行していきます。
ごく早期の段階でがんを発見できれば、子宮頸部を円錐形に切り取る手術などで完治させることが期待できます。しかし、がんが広がってしまうと子宮ごと摘出しなければならなくなることも。また、子宮は残せたとしても、治療で子宮の入り口が細くなったり、閉じてしまったりして、妊娠や出産に影響が出ることもあります。
さらに進行してしまうとさまざまな臓器にがんが広がり、命を落とすことにもなりかねません。早期発見、早期治療が大切です。
異形成や初期の子宮頸がんはほとんど自覚症状がありません。早期発見のための最も有効な手段は、子宮頸がん検診を受けること。出血などの症状がなくても、20歳を過ぎたら、2年に1回、検診を受けましょう。居住地のある各自治体で無料あるいは少ない自己負担で受けられるので、問い合わせを。
検診では、子宮頸部の細胞を先端にブラシのついた専用の器具でこすり取って顕微鏡で調べる「細胞診」が一般的です。細胞診は、がんだけでなく異形成の段階でも発見が可能です。異形成の約8割はがんにならないとお話ししましたが、検診で異形成を発見し、定期的に経過観察していくことで、がん化した場合にごく早期に発見して治療することができるのです。
30代までのワクチン接種で、ある程度の予防効果が期待できる
HPVの感染を防ぐために、大切なのがワクチンです。ワクチンを注射することで、全体の50%~70%の感染が予防できると言われています。
ワクチンはすでに感染している細胞からウイルスを排除する効果はないので、感染前に接種することが大事。初めての性交渉を経験する前の段階が、最も理想的と言えるでしょう。そのため日本では、予防接種法に基づいて小学6年生から高校1年生相当の女子に対して、定期接種として無料で打てるようになっています。
また、セクシャルアクティビティによりますが、定期接種の年齢を超えた人でもある程度の効果が報告されています。定期接種を打ち逃した世代は無料で打てる制度となる見込みなので、自治体に問い合わせてみてください。
現在、日本で定期接種が可能なHPVワクチンには「2価」と「4価」があります。「2価」は子宮頸がんのリスクを高めるHPV-16型と18型に対して予防効果を発するもの。4価は、さらに「尖形コンジローマ」という別の性感染症を招くHPV-6型、11型にも効果があるものです。
HPVワクチンは、2価または4価のどちらか一つを選んで、6か月間に3回接種します(今後回数は減る可能性もあります)。副反応を心配する人もいますが、WHO(世界保健機関)は世界中の最新データを継続的に解析し、「HPVワクチンは極めて安全である」との結論を発表しています。ワクチンについてメリット、デメリットも含めて正確な情報を集め、婦人科医から十分に説明を受けたうえで、納得して接種することが大事です。
なお、ワクチンでHPVの感染を完全にブロックできるわけではないので、ワクチンを接種した人も定期的に子宮頸がん検診を受けてください。
子宮頸がんのほとんどは性交渉におけるHPV感染がきっかけで起こるため、患者さんは「性に奔放な女性」といったイメージで見られがちです。「子宮頸がんになったのはいろいろな男性と遊んでいるからだ」などと言われ、傷ついている女性も少なくありません。
実際は夫婦間でしかセックスの経験がない女性でも、夫が結婚前に別の女性と交際経験があればHPVに感染する可能性は十分にあります。誰もがかかり得る病気だと捉えて予防や検診に努めることが大切なのです。
取材・構成/熊谷わこ
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
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