春から引きずる気分の落ち込み…ストレスとうまくつき合う3つの方法
- 作成:2021/06/01
仕事やプライベートでの環境が変化しやすい春は、1年の中でも特にストレスが大きくなる時期です。この記事をご覧になっている方の中には、「この頃、なんとなく体調が良くない」と感じている方も多いのではないでしょうか。今回は榊原産業医パートナーズ株式会社代表であり精神科医の榊原亙先生が、ストレスとうまくつき合う方法を解説します。
この記事の目安時間は6分です
1. 環境変化後の体調不良は世界共通?
身の回りの環境変化によって、心や体に変調をきたした経験がある方は多いことでしょう。当クリニックにおいても、春先から「憂うつな気分が抜けない」「疲れが残っている」などの訴えで受診される方が増える傾向にあります。
環境変化によるストレスに適応できず心身の不調が出てくる例の一つに、いわゆる「五月病」が知られています。五月病は日本特有のものに思われがちですが、英語圏にもクリスマス休暇明けの「January blues」、夏季休暇明けの「September blues」という同様の用語がみられます。特定の時期に増える心身不調は、地域や言語を問わず存在するようです。
さて、五月病は日本において1960年代から徐々に浸透し、現在では「新年度開始後、環境変化によって気分や体調が不調となった状態」を指す用語として定着しています(正式な病名ではありません)。ストレスへの適応によって自然に軽快する方が多い一方で、なかなか改善せずに6月以降も不調を引きずり、仕事や日常生活に支障が出ている方も一定数いらっしゃいます。
ここでは、環境変化によるストレスで体調を崩さないように、ストレスとうまくつき合うためのポイントを紹介します。
2. ストレスという名の「隣人」
ストレスには3つの要素があります。
外部から受ける刺激(ストレス要因)、刺激に対して生じる心身の反応(ストレス反応)、そして刺激に対して適応・対処しようとする力(ストレス耐性)です。
例えば、丸いボールをイメージしてください。このボールをグッと押していくとどうなるでしょうか。ボールはその形を歪ませながら、押される力に対抗しようとします。ボールを押す力が「ストレス要因」、ボールの歪みが「ストレス反応」、ボールの戻ろうとする力が「ストレス耐性」です。
外部の刺激には、気温や湿度の変化、病気、人間関係によるものまで数多くあります。中には避けることが難しいものもあるでしょう。このため、生活する上でストレスが生じないということはまずありません。ストレスは全てが有害なわけではなく、適度な緊張感がむしろ仕事等で良い結果につながることもよくあります。
とは言っても、ボールを強い力で押し続けるといつか破裂してしまいます。同じ様に、継続してストレスへさらされ続けると、心や体が適応しきれなくなってしまうことも事実です。つまりは、ストレスという名の「隣人」といかにうまく近所付き合いをするのかがポイントとなります。
健康な状態を保ったままストレスとうまくつき合っていくためには、3つのポイントを意識してみてください。
① ストレスに気づく
② 自分に合う対処法を見つける
③ 一人で抱え込まない
それぞれ具体的に見ていきましょう。
3. つき合い方① ストレスに気づく
ストレス反応はその人の心理面、身体面、行動面にさまざまな形で現れます。ストレスと上手につき合うには「今、ストレスが強い状態なのかな?」と早めに気づいて、その後の対処へつなげることが鍵となります。
例えば、最近1ヶ月で以下のような状態が続いていないでしょうか?
1つずつセルフチェックしてみましょう(下記は簡易的なチェックリストになります)。
- イライラすることが増えた
- 理由もなく不安になる
- 落ち着かない気分になる
- 気分が沈み、憂うつだ
- なかなか寝つけない、何度も目が覚める
- 体の調子が悪く、なかなか良くならない
- 物ごとに集中できない
- やることに間違いが多くなった
- 日中に強い眠気がある
- やる気が起きない
- 食事をおいしく感じなくなった
- 疲れていて、朝すっきりと起きられない
- 以前と比べて疲れがとれない
大まかな目安として、該当する項目が3つ以上あるようなら何らかの対処法を検討してください。
4. つき合い方② 自分に合う対処法を見つける
セルフチェックの結果に応じて、ストレス反応を緩和する対処法を実践しましょう。 代表的な対処法は「3つのR」です。
Rest(レスト):ぐっすり眠る
Relaxation(リラクセーション):ゆっくりリラックスする
Recreation(レクリエーション):しっかり趣味の時間を確保する
・ぐっすり眠る
人生のおおよそ3分の1は睡眠時間ですが、ぐっすり眠れるよう積極的に工夫をしている方はそれほど多くないのではないでしょうか。
ストレスへの対処法として、まずは快適な睡眠を第一に考えましょう。ぬるめのお風呂にゆっくり入る、夕方以降にカフェインを摂らない、就寝までの2時間はスマホやPCの使用を我慢する、といった行動の積み重ねにより睡眠の質は大きく改善します。
睡眠が浅くなり中途覚醒につながるため、寝る前のお酒は控えましょう。また、起床時に朝日を浴びることは、体内時計をリセットして睡眠リズムを整えやすくする効果があります。
・ゆっくりリラックスする
ストレッチやヨガなど、意識的にリラックスする方法は複数あります。中でも場所を選ばず短時間でできるものとして、呼吸法(腹式呼吸)がおすすめです。
まず、体を楽にしておへその下に手をあて、10秒ほどでゆっくりと息を吐きます。お腹の中の空気を全て出しきるイメージで、口をすぼめて息を細く遠くに吐きだしましょう。吐ききったら、お腹を膨らませるイメージで3秒ほどかけて鼻から息を吸っていきます。目一杯息を吸いこんだら、少し息を止めて、再び息を吐いていきます。
この呼吸を、10分程度を目安に隙間時間で試してみてください。イメージを頭に浮かべながら行うことでリラックス効果が高まり、睡眠にも良い影響があります。
・しっかり趣味の時間を確保する
一時的にであっても、ストレス要因から離れて趣味へと没頭することは良い気分転換になります。また、親しい人との交流、適度な運動、旅行などは日々の忙しさに追われてつい後回しにしてしまいがちです。ストレスを感じている時にこそ、好きなことができる時間を大切にしましよう。
5. つき合い方③ 一人で抱え込まない
五月病は正式な病名ではありません。症状の内容や程度、個人的要因、ストレス要因の内容等によっては「適応障害」と診断されるケースもあります。
ここまで紹介したセルフケアのみでは改善が難しい場合もあるでしょう。そのような時には一人で抱え込まず、ぜひ周囲へ相談してください。家族、友人、上司など信頼できる相手へ悩みを話すことで、ストレス緩和が期待できます。日頃から「悩みがあったらこの人に相談しよう」と、相談相手を決めておくのも良いですね。もちろん、専門家によるサービス(医療機関、職場の産業医や保健師、カウンセラー)へ直接相談することも可能です。
最近ではストレス対処をサポートするアプリやサービスも充実しています。自分にとって続けやすいものを見つけることが大切です。
6. まとめ
身の回りの環境に変化があった際、ストレスを生じるのは自然なことです。しかし、ストレスとのつき合い方を間違えると、健康を害してしまう恐れがあります。自分に合ったストレス対処法を実践しつつ、周囲や専門家への相談を通してストレスと正しく向き合うように心がけましょう。
榊原 亙(さかきばら わたる)
精神科医・産業医・労働衛生コンサルタント / 榊原産業医パートナーズ株式会社
秋田大学医学部医学科卒業後、医療法人社団 成仁病院にて精神科救急医療の研鑽を積む。現在、榊原産業医パートナーズ株式会社代表、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷パートナー医師。精神科医および産業医として、複数のスタートアップや中小企業の産業保健活動に携わる。メンタル不調や企業の健康づくり全般に関する発信を積極的に行っている。
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