片頭痛の新たな切り札、抗CGRP抗体がもたらす変化とは
- 作成:2022/02/26
片頭痛の治療薬として最近登場したのが、抗CGRP抗体と呼ばれる注射薬です。2000年代の初めに、現在の片頭痛治療の主力である「トリプタン」が登場して以来の新薬で、片頭痛治療を大きく変える可能性のある薬として期待されていますが、どういう薬なのか、どういった効果を期待できるのか、どんな人が使う薬なのか、といった点を簡単に紹介します。
この記事の目安時間は6分です
「抗CGRP抗体」ってどんな薬?
2020年、片頭痛の薬として「ガルカネズマブ(エムガルティ皮下注)」「フレマネズマブ(アジョビ皮下注)」「エレヌマブ(アイモビーグ皮下注)」という3つの薬が新しく承認されました。これら3つの薬はいずれも抗CGRP抗体と呼ばれる注射薬で、片頭痛の薬としては「エルゴタミン」から「トリプタン」へ大きく転換した2000年代以来の、久しぶりの新薬と言えます。
この抗CGRP抗体は、片頭痛の発症に関わっている物質にくっついて活性を邪魔することで、片頭痛が起こらないようにしよう、という薬です。詳しく説明すると、片頭痛の病態に深く関わっている「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)」という物質に、薬が抗体として特異的に結合することでその働きを弱め、片頭痛の発症を抑制する、という作用メカニズムだと言われています。
「抗CGRP抗体」にはどんな効果を期待できる?これまでの予防薬との違いは?
抗CGRP抗体は、「トリプタン」のように「片頭痛が起きた時にその痛みを和らげる」ものではなく、予防薬(☞05)のように片頭痛の頻度を減らしたり、その症状を軽くしたりすることを目的に使います。飲み薬の予防薬と大きく異なるのは、1ヶ月に1回だけ使う注射薬だということです。
効果については、たとえば1ヶ月に9日ほど片頭痛のあった人がこの薬を月1回使うことで、片頭痛の回数は4~5日程度にまで減る1,2)ことが確認されているなど、片頭痛に悩む頻度を減らす効果が期待できます。特に、使い始めたその週から頭痛が少なくなる可能性も指摘されている3)ことから、従来の予防薬より早い効果も期待されています。
「抗CGRP抗体」、どんな人が使う薬?
「抗CGRP抗体」は、臨床試験において優れた有効性や安全性が確認された薬ではありますが、既存薬と比べると、比較的値段が高いという側面もあります。
たとえば、飲み薬の予防薬「ロメリジン(ミグシス錠)」であれば、1ヶ月分の薬は1,300円程度(1回1錠23.50円×1日2回×28日分=1,316円)。3割負担であれば自己負担額は390円ほどで済みます。一方、「抗CGRP抗体」の場合、それぞれ3割負担だとしても1本あたり1万円以上の窓口負担となり、既存の飲み薬の予防薬に比べて高額です。こうした事情もあり、特に頭痛の診療を専門としていない医療機関で診察を受けた場合は、片頭痛の予防を考える際には、値段も安くて使用実績も豊富な既存の飲み薬(☞05)が使われることが多いでしょう。「抗CGRP抗体」は、これら既存の予防薬では十分に効果が得られない、あるいは副作用で使えない、といった場合に選択肢としてあがってくる薬として、位置付けられており4) 、気になる方は主治医に相談してみても良いでしょう。
1) JAMA Neurol . 2018 Sep 1;75(9):1080-1088.
2) Cephalalgia . 2018 Jul;38(8):1442-1454.
3) Headache . 2020 Feb;60(2):348-359.
4) 日本頭痛学会「頭痛の診療ガイドライン2021」
5) J Headache Pain . 2018 Dec 29;19(1):121.
6) N Engl J Med . 2017 Nov 30;377(22):2123-2132.
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