気づいたときは手遅れに...見逃してない? 腎臓からのSOS
- 作成:2023/12/06
健康診断の判定で「腎機能低下の疑い」といわれても、とくに症状がないからそのままにしている。といったことはありませんか? 腎機能が悪い状態である慢性腎臓病(CKD : Chronic Kidney Disease)は、初期に自覚症状がほとんどありません。そのため、気付かないうちに進行し、自覚症状が出るほど悪化してしまう場合や、他の疾病(心臓や脳などの血管の病気)などを起こす事があります。 腎臓は体の恒常性を保つ(簡単に言えばバランスをとる)重要な役割をはたしており、一度機能が損なわれてしまうと、元の状態に回復することは困難です。 本記事では、CKDとはどのような疾患か、どのような人が特に注意すべきか、そして、どのようにして腎臓からのSOSに気づけばいいのかについてご紹介します。
この記事の目安時間は6分です
<目次>
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD)とは、3ヵ月以上続いている腎臓の疾患の事です。CKDは、下記の4点で重要だと考えられています。
(参考文献;平成 26 年3月 「日本人の食事摂取基準(2015 年版)策定検討会」報告書 2023年11月14日閲覧)
①腎代替療法(透析療法や腎移植)を必要とする末期腎不全患者がいちじるしく増え、多くの医療費がかかっている
②末期腎不全への進行する要因であるばかりでなく、心筋梗塞・心不全・脳卒中などの心血管障害にもなりやすくなる
③有病率が予想以上に高く、今後も増加することが心配される
④早期発見によって進展予防、治療が可能である
最初にCKDは「3ヵ月以上続いている腎臓の疾患」と書きましたが、より具体的にすると、下の定義を満たす方がCKDとされます。
【CKDの定義】
a尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在があきらかである(とくに尿タンパクの存在が重要)
b.GFR < 60 (ml/min/1.73m2)
※a,bのいずれか、または両方が3ヵ月以上持続している。
CKDとなる原因はさまざまですが、多いのは生活習慣病です。そのため、 健康診断で「糖尿病」や「高血圧」を指摘されたことのある方は、特に注意が必要 です。
現在、CKDの方は日本国内では約1300-1500万人いるとされており、20歳以上の成人7-8人に1人に値することが予測され、新たな国民病といわれています。
腎臓について知ろう!
腎臓は背中側の肋骨よりやや下の左右に1つずつあり、大きさは握りこぶし大の臓器です。(身体が大きい人は腎臓も大きいです)
腎臓はおもな働きは以下の3つです。
1.老廃物の排泄:身体に必要のなくなったものを、身体の外に出す
2.体液のバランス調整:血液の量や含まれるものの濃さを一定に保つ
3.ホルモンの分泌:酸素を運ぶ赤血球の数増やすホルモンや、血圧を調整に関わるホルモンを出す
このように、腎臓は人間の生命維持に重要な役割を担っています。
CKDの経過と症状
CKDでは、一般的に、進行に伴って以下のような症状の経過をたどります。
※CKDの重症度は一般的に「CKD診察ガイドライン2023」に記されている重症度分類を用いて判断します。
■初期
尿検査(尿アルブミン値、尿タンパク値)で異常はみられても、自覚症状はほとんど現れません。
■中期(eGFR<20−30あたり)
腎機能の低下により、高血圧やむくみ、夜間頻尿などの症状が出ることがあります。一方、この段階になっても自覚症状がない方も多いです。
自覚症状は様々ですが、eGFR<20程度で比較的多くみられるのは、以下のような症状です
ろ過機能低下によるNa、水の貯留に起因するもの・・・高血圧・浮腫
尿の濃縮力低下に起因するもの・・夜間の頻尿
造血ホルモン(エリスロポエチン)の低下による貧血に起因するもの・・・労作時の息切れ
■末期(eGFR<10程度)
末期的な状態で毒素が溜まることから、上記に加えて以下のような症状が生じます。
- 食思不振
- 意識障害
- 高カリウム血症による不整脈(通常はきちんと治療されるのでそれほど心配はありません)
- 低カルシウム血症による筋肉のつり(通常はきちんと治療されるのでそれほど心配はありません)
このような症状が出る一歩手前になると、腎代替療法(透析治療、腎移植)を行いますが、腎代替療法を行わない選択をした場合には死に至ります。
CKDの重要な点は「一度失った腎機能を取り戻せることがほとんどない」ことです。(厳密にいえば、腎機能は誰でも年齢と共に徐々に低下します)そのため、症状がほとんどない早期に発見し、治療を行うことが大変重要となります。
CKDになりやすい人
これまでご紹介してきたように、CKDは初期症状が現れません、では何に気をつければよいのでしょうか。
大事なことは以下のふたつです。
- 健康診断をきちんと受けて、eGFRと尿タンパクをチェックする
- 腎機能を低下させる要因をコントロールする
腎機能を低下させる要因はさまざまですが、ほぼ確実に腎機能を低下させるのは次のような要因です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 喫煙
- 肥満
また、
- 腎炎
- 常染色体優性多発嚢胞腎
- 低出生体重(出生体重<2500g以下)
なども腎機能低下の原因になることが多い要因です。
これらのほか、
- リウマチ性疾患(全身性エリテマトーデスなど)
- 薬剤(鎮痛剤、抗がん剤)
などで腎機能が低下する場合があります。
そのため、CKDのリスクを下げるには、高血圧や糖尿病などの既往がある人は早期からの治療を行う、喫煙者は禁煙をする、肥満の方は適切な体重を維持する、といったことが大切です。これらは、CKDだけでなく、ほかの疾病の観点からも重要です。
腎臓からのSOSは健康診断結果にあり
CKDの初期は自覚症状ないため、日常生活ではわかりません。
しかし、腎臓からのSOSは健康診断の結果に、尿タンパクやeGFRとして現れます。
健康診断で尿タンパクやeGFRなどの項目に異常がみられていたら、自覚症状がなくとも医療機関へ受診を強くおすすめします。
この機会に一度健康診断の結果を確認してみてはいかがでしょうか?
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2003年東北大学医学部卒。研修を経て、Medical College of Wisconsinに留学し、医学博士取得。2012年より石巻赤十字病院腎臓内科部長。2018年より東北大学病院、2019年より現職。RPGNガイドライン2020、腎生検ガイドブック2020などに参加。10冊以上の腎臓内科・透析の著書がある。(『長澤先生、腎臓って結局どう診ればいいですか?』(羊土社)、『Dr.長澤の腎問答』(中外医学社)、『この局面にこの一手!Dr.長澤直伝!腎臓病 血液透析の定跡』(金芳堂)など)
総合内科専門医、腎臓専門医・指導医、透析専門医・指導医、日本医師会認定産業医、医学博士
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